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映画『リトル・フォレスト』で“生きること”を学び、春夏秋冬を味わう

©「リトル・フォレスト」製作委員会

『リトル・フォレスト』はポカポカとした温かみのある、“お母さん”のような作品だ。

五十嵐大介による同名漫画を実写化した日本映画『リトル・フォレスト 夏・秋』『リトル・フォレスト 冬・春』は、小森という村を舞台に主人公・いち子(橋本愛)が春夏秋冬を自給自足して過ごす様子を描いている。

都会で暮らしている人たちの中には、「仕事を辞めてのんびりと暮らしたい」「引退したら田舎に引っ越すぞ」なんてことを考えたことがある人も多いに違いない。関東生まれの筆者もそうだ。

一方で、地方育ちの人であれば「田舎に帰りたいな」と懐かしむ人もいるだろう。いち子もまさにそのうちの一人。幼い頃から母親と過ごしてきた小森を出て、都会で暮らしていたのだが、彼と別れたことをきっかけに再び小森に戻ってきた。母親はある日突然家を出て行ってしまい、今どこで暮らしているのか分からない。しかし一緒に過ごした家は、小森にそのまま残っている。その家に戻ったいち子は、母親の料理やなんてことなかった日々を思い出しながら暮らしている。

本作は、そんないち子と一緒に農作業をしたり、木の実を摘んだり、料理をしたりしているような気持ちにさせてくれる。古いけれどどこか趣のある家で、ジャムを作って、縁側でパンと一緒に食べる姿を見ていると「これこそが思い描いていた田舎暮らしの形だ」と思わされる。お金のために仕事をするのではなく、生きるために畑や山に出て働いている。

いち子の詩のような語りや自然の音には癒し効果がある。沢を流れる水の音、風で葉っぱがこすれ合う音、家に寄ってくる“夜の訪問者”たちの音。湿度が高い室内を乾燥させるために、夏でもストーブを焚く。それを利用してパンを作る。稲刈りの時期には、あけびを揚げてお弁当に。栗の渋皮煮を作ることが村の中で流行りになることも。冬につく砂糖醤油の納豆餅を見ていると、グーっとお腹が鳴る。そして日々移り変わっていく景色が、絵画のように映し出されていく。都会では鳥のさえずりすら聞くことが難しいからこそ、こういった景色へのあこがれが強く、惹かれてしまう。もちろん良い面だけでなく、農作業の難しさやスーパーまで行くのに丸一日かかることなど、田舎生活の現実的な部分も教えてくれる。

一方で、いち子と同じように出戻りをしてきたユウ太(三浦貴大)の言葉にはハッとさせられる。

「いち子ちゃんは一人で一生懸命やっててすごいなって思ったけどさ、本当は一番大事なとこから目そらしてて、それをごまかすために、自分をだますために、その場その場を一生懸命で取り繕ってる気がするよ。本当は逃げてるんじゃないの?」

いち子よりも年下なのに、彼は自分の言葉で責任をもって話しているし、いち子のこともしっかりと客観的に見ている。いち子と暮らしているような気持ちになる映画だが、同時にいち子になってしまったのかと感じるほど直球に、自分自身にも沁みてくる言葉だ。

いち子とキッコ(松岡茉優)とのケンカでも、グサっと突き刺さる言葉が放たれる。

「いつもそうやってきいたふうなこと言うけどさ、口先ばっかじゃん。そんなこと言えるほど、他人とちゃんと向き合ってきたの?」

逃げることは恥じることではない。しかし、自分自身や他人と向き合う必要があるときもある。一つ一つの野菜たちに適切な育て方と保存の仕方があるように、その人にも生き生きと生活できる世界がどこかにあるのだ。いち子の母からの手紙でもあるように、人生はその場でぐるぐる回っているように見えても、角度を変えて見れば、らせん階段のように前に進んでいることだってある。小森で暮らしながら、文句も多く言っていたいち子だったが、“逃げ場”ではなく“自らの選択”として小森に住むことを決意して、ラストにいち子が見せた神楽には、一皮むけたような力強さが滲み出ていた。

ちなみに本作は、2018年に韓国でもリメイクされている。韓国が舞台のため、出てくる食事はスジェビ(すいとん)、ソルギ(餅ケーキ)、マッコリ、チヂミ、トッポッキなどもちろん韓国料理。韓国版では(103分の映画ということもあってか)主人公の成長に主眼を置いており、へウォンが田舎に帰ってきた理由や、登場人物が抱える苦しさなど、バックグラウンドがより明確に表現されている。日本版では食事と軽快な音楽とともに過去のエピソードを振り返っていくが、韓国版では「生きるのが苦しい」という言葉が出てきたり、友達との関係がより濃く描かれていたりする。また、同じ村には伯母が住んでおり、完全にひとりぼっちというわけではない。そして韓国のあいさつ代わりの言葉「ご飯食べた?」が、この作品の食をより大切なものにしている。

日韓どちらの作品も、一言一言が原作に忠実に描かれている。原作漫画では作者の田舎での体験やレシピなども描かれているので、手に取ってみることをおすすめしたい。

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伊藤 万弥乃

海外映画とドラマに憧れ、英語・韓国語の勉強中。大学時代は映画批評について学ぶ。映画宣伝会社での勤務や映画祭運営を経験し、現在はライターとして活動。シットコムや韓ドラ、ラブコメ好き。

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