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ブックレビュー

『題のない本』エドワード・ゴーリー|本について語るときに私の語ること

本を読むとき、私たちはどうしてもそこに意味を見出そうとしがちである。この本は何を伝えているのだろう?この本から何を学べるだろう?この本を読む前の自分と、読んだ後の自分とで、何が変わるのだろう?私たちは本を、あるいは読書から得られる何かを自分の糧となると思い込んでいるかもしれないが、時には何の意味も見出せない作品があることを忘れてはならない。そしてまさしく、エドワード・ゴーリー『題のない本』はその類の本である。

エドワード・ゴーリーと言えば、緻密なモノクローム線画や独特のリズムを持った文章、どこか不気味で重厚な世界観、そして「ゴーリー文字」と呼ばれる手書きの文字が特徴的な絵本作家だが、『題のない本』はこれらのゴーリー的要素をさらにシュールに昇華しきったような作品だ。

物語は————この作品には物語などあってないようなものだが————定点カメラのように固定された視点で進んでいく。その視点が捉えているのは、家の窓から外を眺める人と、その視線の先にある木や、塀、流れゆく雲、そしてそこを通り過ぎていく大きな蟻のような生き物や蛙のような生き物、まるでタイルのような柄をした兎に近い生き物、大きな蝙蝠のような生き物、玉ねぎの妖精のような生き物……。彼らは突如現れては特に何をするでもなく、手を取り合ったり、みんなしてすっ転んだり、そして急にいなくなったりするわけだが、彼らの謎をさらに深めているのが絵本に添えられた言葉の数々だ。言葉というより呪文のようなものがひたすら続き、それら1つひとつはどれも意味を持たない。なんとなくリズムがよく、思わず口に出してしまいそうな面白さがあるが、何を言っているのかはさっぱり分からないのだ。

訳の分からぬ言葉たちと、何者か分からぬ生き物たち、そして窓際にぼうっと立つ人の気怠げな表情のユニークさ。なんだこれ、とちょっぴり笑ってしまうくらいがちょうどいい、そんな一冊である。

■書籍情報
『題のない本』
エドワード・ゴーリー 著
柴田 元幸 訳
‎ 河出書房新社 (2000/11/2)
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309267838/

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青山文

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