慌ただしく過ぎゆく年の瀬の頃。各メディアでは疾っくの疾うに年間ベスト・アルバムが選出されているが、ここでどこよりも遅い(と予想される)年間ベスト・アルバム記事を公開しようと思う。今年もさまざまな音楽を聴いてきたけれど、結局好き、やっぱり好き、どうしようもなく好きだと思えるような5枚に絞った。極めて個人的なマイ・ベスト・アルバムをどうか聴いてみてほしい。もちろん、あなたのお気に入りだって含まれているかもしれないけれど。
■Did you know that there’s a tunnel under Ocean Blvd – Lana Del Rey
米・ニューヨーク州出身のシンガー・ソングライター、ラナ・デル・レイによる9枚目のアルバム。ラナ・デル・レイといえば、テイラー・スウィフトとのデュエットである「Snow On The Beach」でも話題となったが、本作ではジョン・バティステやファーザー・ジョン・ミスティ、トミー・ジェネシス、ブリーチャーズなどがゲストボーカルとして名を連ね、豪華な1枚となっている。寄せては返す波のような心地よさがあるラナ・デル・レイの歌声をこれでもかと堪能でき、どの曲も映画を一本見終えた後のような満足感がある。
■Beloved! Paradise! Jazz!? – McKinley Dixon
米・ヴァージニア出身のラッパー兼プロデューサーとして活躍するマッキンリー・ディクソンのニュー・アルバム。タイトルは、トニ・モリスンの小説3部作に因んで名付けられているという。アメリカの歴史への眼差し、そしてそこに溢れ出る憧憬と逃避を、彼女独自のリズムを持って描いたトニ・モリスン。このアルバムは彼女が放ってきたパワフルさを音にするが如く、鮮やかなエネルギーに満ちている。ジャジーで、ソウルフルで、メロウで、完成度の高さに圧倒されざるを得ない。
■Passage – Johnathan Blake
米・フィラデルフィア出身のジャズ・ドラマー、ジョナサン・ブレイクによるニュー・アルバム。2021年にリリースされたデビュー作『Homeward Bound』以来の2枚目となった本作は、彼の父であり、音楽の師でもあったジャズ・ヴァイオリニストのジョン・ブレイク・ジュニアに捧げられた1枚で、ダグラス、ヴィレレスやドラム・レジェンドのラルフ・ピーターソンも参加している。自由に叩くジョナサン・ブレイクのドラムに、イマニュエル・ウィルキンスのサックスが存在感を放ち、思わずうっとりしてしまう作品。6曲目の「Tears I Cannot Hide」は、何度も何度も繰り返し聞いてしまう。
■KNOWER FOREVER – KNOWER
米・ロサンゼルスを中心に活動している超絶技巧の天才ドラマーであり、シンガーソングライター、プロデューサーとしても活躍するルイス・コールと、唯一無二の存在感を放ち、ルイス・コールの惚れ込んだボーカルであるジェネヴィーヴ・アルターディ。そんな2人によるユニット・KNOWERのニュー・アルバム。ベーシストにサム・ウィルクス、サックスにサム・ゲンデル、キーボードにライ・ティスルスウェイトやジェイコブ・マンが参加し、まさに化学反応が怒っていく様子を目の当たり(耳の当たりと言うべきなのか)にできる。予測できないメロディー展開やコード進行が癖になり、音楽って楽しいよねと改めて思わされる1枚。
■MOONAGE – 中田裕二
椿屋四重奏のフロントマンを務め、解散後もソロ・ミュージシャンとして多くの人気を集める中田裕二のニュー・アルバム。椿屋四重奏の頃よりもさらに深みを持った艶を放つ歌声に、70〜80年代の歌謡曲やAORといった彼のルーツを濃縮させた1枚で、前作よりもさらに丁寧な音作りが光輝く。月灯りに照らされる人々の悲しみや迷い、愛や誠実さを丹念に歌い上げており、ソングライティング力の高さを惜しみなく発揮している作品だ。中田裕二が築いてきた音作りのスタイルが、今ここで1つの集大成となったと感じさせるほどクオリティが高く、何度も聴いてしまう。
2024年も素晴らしい音楽に出会えることを祈って。皆様良いお年を。
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