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小津映画と日本酒

©️松竹株式会社

酒と映画、どちらも眠れない夜を彩るには欠かせないカルチャーである。そして日本が誇る酒といえば日本酒であり、日本が誇る映画館といえば小津安二郎だろう。

日本映画の黄金期に活躍した小津安二郎の映画には、本当に酒がよく登場する。暴論ではあるのを承知で言うと、むしろ小津は日本酒を愛したが故に日本を誇る映画監督になったのではないだろうないか。そこで日本酒と小津の関係という視点で、まとめてみた。昨今、小津映画を見たことがないという人も多いだろうが、酒という入り口から小津映画に入っていくのもなかなか楽しいはず。ぜひ、映画を見るきっかけにしてほしい

小津安二郎について

小津安二郎 ©️松竹株式会社
1903年12月12日東京生まれ。1920年代〜60年代にかけて活躍した映画監督。戦後は脚本家・野田高梧とタックを組んで「晩春」「麦秋」「東京物語」といった名作を発表した。家族・親子をテーマにした作品を得意とする。小津の作品は国際的に高く評価され、小津映画の独特な映像演出は「小津調」と呼ばれている。

 小津安二郎の愛した日本酒「ダイヤ菊」

大の酒好きである小津が特に好んだとして有名なのが「ダイヤ菊」という銘柄の日本酒だ。

小津の晩年の名作は、長野県茅野市にある雲呼荘(うんこそう)と名付けた別荘で脚本家の野田高梧と小津が脚本を練っている。この長野県にダイヤ菊の酒造があるのだ。雲呼荘で脚本を作る間、小津と野田の2人は毎日毎日酒ばかり飲んでいたそうだ。仕事なのに……!

この間に小津がつけた日記には、度々ダイヤ菊が登場する。小津が野田高梧に向かって「ダイヤ菊100本飲みましたが、まだ映画が完成しませんね」なんて言ったと記録が残っているらしい。1升瓶の酒100本を、彼らはどのくらいのペースで飲んでいたのだろうか。

ちなみに小津の好みは55度の熱燗。

ダイヤ菊の名称は最高の宝石「ダイヤモンド」と日本の名花「菊」を組み合わせ最高のお酒を目指して名付けられたもの。今ではネットで注文し全国どこでも飲むことができるので、ぜひ小津が愛したダイヤ菊を飲んでみてください。

『小早川家の秋』のモデルとなった増田徳兵衛商店

1954年、小津安二郎は野田高梧と小説家の里見弴(とん)の2人とともに伊勢・志摩・大阪・京都を巡る旅行をしている。その時に案内役をしたのが、伏見の酒造「増田徳兵衞商店」の旦那・十二代増田徳兵衞だった。

増田徳兵衞商店は「月の桂」というにごり酒の蔵元だ。月の桂は作家の永井荷風、谷崎潤一郎や映画監督の黒澤明、更には瀬戸内寂聴にまで愛され「文人の酒」とも呼ばれているらしい。きっと小津も旅行中は徳兵衞に月の桂をしこたま飲まされたのではないだろうか。

旅行の後、小津は作り酒屋の旦那を主人公とした「小早川家の秋」という映画を撮った。舞台は伏見。主人公のモデルは十二代増田徳兵衞である。

『小早川家の秋』©️1961 東宝株式会社

タイトルに「秋」と入っているが全編通してとても暑そうで、「残暑が…」というセリフも頻繁に出てくるところから設定は9月ごろであろう。

酒造りは10月から春先にかけて寒い時期に行うので、酒造りのシーンは出てこない。酒を飲むシーンも少なく、酒造が舞台のわりに「酒」が印象に残らないのがおもしろい。外の壁にタルが立て掛けてあったり、旦那の娘婿が「月の桂」と書いた前掛けをしているところなど細かい部分で酒造を感じることができる。

日本酒を飲むシーンは1ヶ所。旦那がキャビアをアテにして日本酒を飲む。なんてツウな飲み方なんだ。1度は試してみたい組み合わせである。

 小津映画の飲んだくれ3人組オヤジ

小津は、小料理屋で気分の合った仲間が酒を飲みながら談ずる様子が楽しそうで好きだったらしい。だからか、小津の映画では「友だち同士のオヤジ3人組が小料理屋で飲む」というシーンの多いこと、多いこと。

雲呼荘で小津と野田が脚本を練るようになって以降の映画7本のうち、3本は仲良し3人組のオヤジが酒を飲んでグダグダ話す映画だ。同じような設定の作品が多く、小津好きもどれがどの話だか混乱する始末。作品への酒の登場回数から、脚本作りの時にたらふく酒を飲んでいるのが容易に想像できる。

さて、ここでは小津が雲呼荘入りして以降に作った、「オヤジが酒飲む映画」の3本をざっくり紹介しよう。どれもユーモアと人間の温かみが目一杯つまっていて、最高に楽しめる作品だ。

小津の映画にはこの3本以外にも、たくさん日本酒が登場する。キャラクターや状況にあった銘柄を想像して遊ぶなんて、日本酒上級者ならではの楽しみ方をしてはいかがだろうか。

「彼岸花」

『彼岸花』©️1958 松竹株式会社

公開年1958年
出演佐分利信、田中絹代、山本富士子ほか
酒が出てくる回数7回
うち日本酒が出てくる回数2回


ざっくりあらすじ

オヤジ3人組のうちの1人である平山が、自分の娘の結婚相手を巡って娘と喧嘩する。

酒のシーンの見どころ

オヤジ3人を含む同級生の同窓会。旅館でビールと日本酒をしこたま飲んで酔っ払ったオヤジたちが、詩吟ができる三上に「やってくれよ」と頼んで詩吟をさせる。

この詩吟が、とにかく長い。長すぎる。みんなこれを聞いて楽しいのか?と思いながら手持ち無沙汰に詩吟を聞く。これもまた一興…なのだろうか?おそらく、詩吟を読むのは明治生まれの当時の「古い人間」らしい行動なのだろう。きっと公開当時見ていた観客も若い人は「うわぁ、明治のオヤジって感じ」って思ったはず。

三上が詩吟の途中で「長いから飲みながら聞いてくれよ」と言うので、できればこちらも酒を飲みながら聞いてみてほしい。映画と観客の間の境界がなくなり、飲みの席に参列している気分になるはず。初めて観た時は「これなんの時間?」と戸惑ったが、何度も観ているとクセになる。

ひとこと

小津初のカラー作品。見どころに書いた詩吟は戦を前にして死を覚悟した南北朝時代の武将・楠木正行が辞世の句を書き付ける場面。戦前には学校で習ったようだ。

「秋日和」

『秋日和』©️1960 松竹株式会社

公開年1960年
出演原節子、司葉子、佐分利信ほか
酒が出てくる回数8回
うち日本酒が出てくる回数3回

ざっくりあらすじ

オヤジ3人組が、母子家庭の母娘どちらにも結婚相手をあてがえようと企む。しかし、やり過ぎて娘の友達に怒られる。

日本酒シーン見どころ

岡田茉莉子演じる娘の友達がオヤジたちを寿司屋に連れて行くシーン。年上の男たちをやり込める、生意気な岡田茉莉子のコメディエンヌぶりが魅力的である。

『秋日和』©️1960 松竹株式会社

板前が日本酒を瓶から徳利に移すのだがラベルが見えそうで見えない。どんな銘柄を飲んでいるのか気になるところ。「お熱いの」と言っているので熱燗なのだろう。つまみは寿司。オヤジたちはまぐりや赤貝を注文する。

ひとこと

これは日本酒が4回も出てくる、立派な日本酒映画ではないか?母を思う娘、娘を思う母の姿が感動的な作品だ。

「秋刀魚の味」

『秋刀魚の味』©️1962 松竹株式会社

公開年1962年
出演笠智衆、岩下志麻、岡田茉莉子ほか
酒が出てくる回数10回
うち日本酒が出てくる回数3回

ざっくりあらすじ

オヤジ3人組のうちの1人である平山(彼岸花の平山とは別人)が娘を嫁にやる話。

日本酒シーン見どころ

本作は6回もウィスキーの場面が出てくるウィスキー映画だ。だが安心して欲しい。最初のシーンではちゃんと日本酒を飲んでいる。映画の序盤、オヤジたちが集った小料理屋の個室に女将が「お熱いの」と徳利を持ってくる。また熱燗か。オヤジたちは酒を持ってきた女将に「旦那には薬を飲ませてるのか」という旨の事を聞いてからかう。悪ふざけがひどい。口ぶりからしてセクハラ発言っぽいんだけど薬ってなんだ?バイアグラ的なものを指してるようなニュアンスだ。

序盤はこんなふざけたシーンがあるが、本筋は妻を亡くした後に一人娘を嫁にやる男の孤独や哀愁が描かれた味わい深い作品。わいわいと酒を飲むシーンがあることで、年老いた男の寂しさが際立つのである。

ひとこと

こちらは小津最後の映画作品。とにかく酒のシーンが多い。多すぎる。フランスでは「LE GOUT DU SAKE」(酒の味)というタイトルがつけられた。日本語タイトルにある「秋刀魚」は映画に出てこず、酒ばかり飲んでいるからだろう。映画を作る前にタイトルだけ先に決めたので、実際は出てこない「秋刀魚」がタイトルに入っている。

お洒落でチャーミングな小津映画を楽しんでみて

酒と映画と言えば小津安二郎だ!と思って調べてみたが、改めて映画を観ると小津がどれだけ酒を愛していたかよくわかる。

小津映画というと敷居が高く感じるかもしれないが、脚本を練った雲呼荘のネーミングセンスからもわかる通り小津作品はとってもユーモラス。まじめクサって鑑賞する必要はなく、酒への興味から入ってみるのも大アリだ。紹介した映画の他には、呑むシーンはそこまで多くはないが『浮き草』『東京物語』『晩春』あたりが筆者のおすすめ。ちょっとお洒落な気持ちの夕べには、小津と日本酒でカルチャーを嗜もう。

※本記事は私の検証・考察で作られているので不確定な部分がある事をご了承ください。

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こばやし ななこ

食と映画と本とおしゃべりを愛するフリーライター。ニュース記事からコラム、ストーリープロット、脚本まで幅広いジャンルを執筆。恥の多い人生を更新している。

  1. 小津映画と日本酒

  2. 『オッペンハイマー』エンタメ映画としてのすばらしさと、抜け落ちた原爆描写

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