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花嫁と両親に捧ぐ、名作『花嫁の父』から最新作『花嫁のママ』までを振り返る

© 2024 Netflix, Inc.

2024年も6月に入った。この季節と言えば、じめじめと長引く梅雨もそうだが、“ジューンブライド”に憧れて結婚式を行うカップルも多いことだろう。そんな花嫁・花婿たちに向けた映画……ではなく、彼らの両親に向けた映画をご存じだろうか?

Netflixにて5月8日より配信が開始された『花嫁のママ』。南国リゾートにて繰り広げられるドタバタラブコメの本作は、小説を原作に1950年に公開された『花嫁の父』、そして1991年と2022年にリメイクされた『花嫁のパパ』に続く“花嫁の○○”シリーズだ。本記事では、この3作品を振り返り、娘の結婚に翻弄される父もしくは母のそれぞれの様子や、込められた想いを振り返っていきたい。

■『花嫁のママ』(2024年)

最新作『花嫁のママ』では、ロンドンに留学していた娘エマ(ミランダ・コスグローブ)が帰国するや否や、母ラナ(ブルック・シールズ)に婚約したことを告げるところから始まる。既に結婚式はタイで行われることが決まっており、現地に向かうとそこにはラナの元カレ・ウィル(ベンジャミン・ブラット)が……。なんと彼は花婿の父親だったのだ。大恋愛をしたものの突然自然消滅し、エマの父と出会ったラナ。夫亡き今、ウィルと再会し、あの頃の想いが押し寄せる。

今までの作品では結婚式は花嫁の実家にて行われていたが、今回は南国。リゾート気分を味わうことができ、それだけでも満足できる作品だ。さらにエマはインフルエンサーで、結婚式をSNSに載せることが中心となっているのが現代らしい。母娘だからこそ共有できていた理想の結婚式と、現実で行おうとしている結婚式が程遠くなってしまうという点も子供が親元から巣立ち始めていることを感じさせる。

また他の3作品と異なるのは、母の恋愛にフォーカスされているというところ。娘の結婚に加えて、長年1人で子供を育ててきたラナにも新たな人生のフェーズがやって来る。母と娘の門出を描いた明るく前向きな物語だ。

■『花嫁の父』(1950年)

1950年に公開された元祖『花嫁の父』は、娘のケイ(エリザベス・テイラー)をハネムーンに送り出し、結婚式に疲れ果てた父スタンリー(スペンサー・トレイシー)の語りから始まる。割れたガラスが散乱し、スタンリーのネクタイはほどけたまま。婚約を知らされてから、結婚式が行われるまでの3ヵ月間、どれほど大変な日々だったのか回想される。

いくら人生経験が豊富でも子供の結婚は初めてなわけで、相手の両親との顔合わせや、義理の息子になるバックリー(ドン・テイラー)とのぎこちない会話など、緊張感が漂ってくるシーンはただただ面白い。婚約記念パーティーではたくさんマティーニを用意したのに飲んでもらえなかったり、娘がとんでもない理由で結婚式は中止だと言ってきたり……。振り回され、空回りする行動自体笑えるのだが、「一生分のお世辞を言った」などクスッとしてしまう心の声もこの作品の魅力。花嫁姿の娘を見た時は特に感情がこもっていて、筆者も父親でもないのに涙しそうになってしまった。笑えて、時にしんみりできる、家族の愛が込められた今も輝く名作だ。さらに翌年には、スタンリーに孫ができる続編『可愛い配当』が公開された。

■『花嫁のパパ』(1991年)

初のリメイク作品となった『花嫁のパパ』は、他2つのリメイク作品に比べると全体的に1950年版に忠実に作られているが、よりコメディ色が強くなっている。本作も、娘のアニー(キンバリー・ウィリアムズ=ペイズリー)の結婚式が終わった直後、父ジョージによる語りから、結婚を告げられてからの日々が回想されていくパターン。1950年版よりは娘との距離も近く、柔らかい雰囲気で家族を包み込む妻ニーナ(ダイアン・キートン)とのバランスも良い。

ジョージを演じたスティーヴ・マーティンは「サタデー・ナイト・ライブ」にも多数出演した生粋のコメディアン。映画『サボテン・ブラザース』や、セレーナ・ゴメスと3人で殺人事件の謎を解決していく人気シリーズ『マーダーズ・イン・ビルディング』でも共演している友人マーティン・ショートも、変なアクセントで話すウェディングプランナーのフランクとして出演している。

続編の『花嫁のパパ2』ではジョージが祖父、そしてなんと再び父親に。『花嫁のパパ』で結婚した娘が身ごもり、同じころ妻も子供を授かったことが分かるのだ。相変わらずコメディ色が強く、前作で強烈なインパクトを残したフランクとも再会。子供の巣立ちに加え、新たな生命を授かることになったジョージの葛藤が中心に描かれる。スティーヴ自身も67歳で子供を授かったことから、特に2作目への思い入れが強かったに違いない。コロナ禍には『Father of the Bride Part 3 (ish)』と題して、25年ぶりにZoom上にキャストが集まった。(Netflix公式YouTubeにて公開中)

■『花嫁のパパ』(2022年)

一方、2022年にリメイクされた『花嫁のパパ』では、アンディ・ガルシア演じるビリーが自らの結婚式を回想するシーンから始まる。ガルシアのルーツと同じく、キューバからやってきたビリーは、ヒスパニックな雰囲気漂う音楽とともに今までとはまた違った世界へ引き込んでくれる。そして今もさぞ幸せな家庭を築いているのかと思いきや、夫婦関係を続けたいビリーと、離婚したい妻イングリッド(グロリア・エステファン)のカップルセラピーのシーンに。娘2人が成長し、やっと夫婦心置きなく過ごせる日々を迎えようとしているにも関わらず、新たな危機に直面したビリーだったが、突然告げられた娘ソフィア(アドリア・アルホナ)の結婚を機に家族との絆を再確認していく。

結婚式を決める過程は、『花嫁のママ』同様に現代的だ。インスタグラムで人気のプランナーを呼び、短期間で式のテーマを決める。さらに本作では、妹コーラ(イザベラ・メルセード)がデザイナーとしてウエディングドレスを手掛けることになり、彼女のキャリアの成長も新たなドラマとして映し出される。輝かしく理想的な進路を辿ってきた姉を持つコーラは、大学には行かずにデザイナーとして独立しようと考えていたのだ。そんな2人の旅立ちは、アメリカに無一文でやってきて家庭を築いたビリーにとって、人生の中でも大きな出来事。離婚を切り出されてしまうほど、過去2作品の父親よりも頑固なビリーと家族が正直になっていく姿は、きっとどの家庭にも共通する大切な教訓になるはずだ。ヒスパニック系の多いマイアミが舞台であり、南米にルーツを持つ2人の結婚ということで、スペイン語と英語が交互に飛び交う異国情緒あふれる作品になっている。

意図せず、足早にやってきた愛娘の旅立ち。そしてその展開に戸惑い、焦りながらも、幸せを願う親。心に渦巻くありとあらゆる感情が、1作品ごとに異なる形で丁寧に収められている。性別、ルーツ、環境、時代が異なっても娘(および息子)を想う気持ちは同じなのだ。結婚を控えたカップルとその家族だけでなく、自分が家族に受けた愛を確認できるような、温かい作品となっている。ぜひ家族を想って観てみてほしい。

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伊藤 万弥乃

海外映画とドラマに憧れ、英語・韓国語の勉強中。大学時代は映画批評について学ぶ。映画宣伝会社での勤務や映画祭運営を経験し、現在はライターとして活動。シットコムや韓ドラ、ラブコメ好き。

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