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“デジタルネイティブ”な中高生に贈りたい映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』

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あなたはどんな学生時代を過ごしましたか? クラスの中ではどんな様子でしたか?

人生の中でも輝いていた時期だと言う人もいれば、あまり思い出したくない人もいるだろう。学生時代の心の動きはとても活発で、上手くいかないことにモヤモヤしたり、関わりたくない人とも関わらなければいけなかったり……。大人になれば自分が嫌なことから逃げるのは簡単だけれど、社会的にも身体・精神的にも自立できない思春期は一番苦しさを感じる時期だと言える。

映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』は、そんな学生時代を生きる13歳のケイラ(エルシー・フィッシャー)を描いたほろ苦い物語だ。“デジタルネイティブ”とも言われるZ世代に焦点を当て、SNSとともに成長してきた彼女たちの青春を映し出している。

YouTubeでメイクを学び、Snapchatに写真を投稿する普通の女の子ケイラは、ちょっぴりシャイ。エイスグレード(=中学3年生)の卒業を前に発表された“無口賞”に選ばれてしまう。家の中では常にイヤホンをして、ずっとインスタを見ていて、父親に対してはイライラ。ニキビも絶え間なく出てくるし、ちょっと猫背。まだ完全に垢抜けることができていない、誰とも何も変わらない思春期の中学生だ。

映画の最初にケイラが発する言葉「自分らしく」。彼女が、自身のYouTube発信を通して理想の自分を作り上げていく点もZ世代らしい。ケイラ自身も、自分が発する言葉に励まされ、少しずつ成長していく。そんな彼女の言葉と成長を拾っていきたい。

■「一歩踏み出すこと」

憧れのケネディ(キャサリン・オリヴィエ)の母親にプールパーティーに誘われたケイラは、「もし行けたら、分からないけど」と断ろうとするが、自分を奮い立たせてパーティーに向かうことを決める。「週末の自分」を知ってもらえれば、学校での見られ方も変わるかもしれないからだ。しかし、一歩踏み出してみてもやっぱり怖い。ケネディの家に行ってみても、どうしようと立ち止まってしまう。

それでも意を決してプールに思い切って入ったものの、端っこでみんなを見守るだけ。写真撮影やプレゼント交換ではみんなの輪に頑張って入ってみるが、何もしてないのに変な空気にしてしまうし、好きな人の前では変なことを言ってしまう……。自己嫌悪とすら言えないような、もどかしい感情が渦巻いているのがわかる。本当の自分はこんなんじゃないと自分に言い聞かせたり、自分を価値ある人に見せるために周りを「バカな人たち」と嘲笑してしまうところも思春期らしい。それでも周りの話に笑って頷くしかないのだ。

■「どうやって自信を持つか?」

鏡の前で会話を練習してしまうのなんて日常。起こることを想像していかないと自分の理想を保てないかもしれないからだ。よくわかる。大人の筆者でさえ、時々会話を練習してしまうことがある。だからこそ、この映画は自分が見られているような恥ずかしさも感じてしまう。

そんなケイラは「(自信は)なくてもあるフリができる」「怖いからこそ勇気が湧くの」と語る。一歩踏み出したこと自体が、次の勇気に繋がる。プールパーティーに参加したケイラは、後日学校でケネディたちに話しかけることができた。ちゃんと話を聞いてもらえなくても、ケイラにとっては大きな前進だ。筆者はこのシーンを観て、心の中でケイラに拍手を送ってしまった。

■「大人になる」

高校の体験入学で、超イケてるお姉さん・オリヴィア(エミリー・ロビンソン)とペアになったケイラは、彼女と電話番号を交換し、モールに遊びにいく約束をした。イケてる人たちとモールで遊べるなんて!とケイラのワクワクも最大値に。しかし、モールのフードコートで先輩たち4人がご飯を食べながら他愛もない話をしていても、登場人物がわからないからついていくことができず、愛想笑いを振りまくだけ。それを心配されるのも居心地が悪い。

自分を出すってどうやるんだっけ…?そもそも自分ってどんな人間だっけ…?と無限ループに入ってしまう気持ちはよくわかる。でも安心して欲しい。自分らしくいることができない自分が悪いのではなく、環境が自分に合っていないのだ。しかしその自分が頑張らずにいられる社会の環境に身を置いたことがないから、「自分だけ違う」と焦ってしまうのも10代だ。そんな心情の中、一歩踏み出すことができたケイラは本当に頼もしいと思う。パーティーに行かなくても周りは何も変わらないのに、自分のために行くことを決めた。その一歩が大人になるとなかなかできなくなるものだが、ケイラの挑戦しようとする心意気には驚いた。

この映画を観ると「わかる」という言葉ばかり出てきてしまう筆者は、ケイラと同じくスポンジボブの置物を持っていたし、中学の時は人見知りで、吹奏楽部でパーカッションを担当していた。家の中の自分と学校にいる自分が別人のように感じられたこともあった。しかし大人になるにつれて、自然と自分らしくいることができる空間が生まれた。(ケイラがYouTubeで発信しているように、筆者はこの映画を紹介することで自分に“自分らしくいること”を言い聞かせているのかもしれないが)学生全員に観てほしい映画だ。

「グッチ!」

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伊藤 万弥乃

海外映画とドラマに憧れ、英語・韓国語の勉強中。大学時代は映画批評について学ぶ。映画宣伝会社での勤務や映画祭運営を経験し、現在はライターとして活動。シットコムや韓ドラ、ラブコメ好き。

  1. タイムループに陥り、遊び倒し、そして自分を見直す『パーム・スプリングス』

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