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タイムループに陥り、遊び倒し、そして自分を見直す『パーム・スプリングス』

『パーム・スプリングス』 ©2020 PS FILM PRODUCTION,LLC ALL RIGHTS RESERVED.

アメリカ・カリフォルニア州のパームスプリングス。音楽フェス「コーチェラ」が開催される場所としても知られる、ロサンゼルスから少し離れた砂漠リゾート地だ。

映画『パーム・スプリングス』では、そんなバカンスの地で若者2人がタイムループにはまってしまう様子が描かれている。

一方、ナイルズはこのタイムループする世界を熟知している。次の日にサラに問い詰められたことで、彼女をタイムループに導いてしまったことを知る。この止められないループの中で、毎日楽しんでいたのだ。だからこそ、あの余裕のダンスができたのだろう。

洞窟に入るか、死ぬか、あるいは寝ると一日が終わり、また同じ一日がやってくる。命を絶ってでも逃げ出したくなることもあるのに、死ぬことも許されない。ここで考えてしまうのは「自分がタイムループにはまったら何をしたい?」ということではないだろうか。禁止されていること、勇気が出なくてできなかったこと、やったら後悔しそうなことなど、どんなに突飛なことをやっても明日にはリセットされているのだから。

何とか抜け出したいサラとタイムループを有意義に使うナイルズはどう動いていくのだろうか。最初は焦って帰ろうとしていたサラは、簡単には戻れないことがわかると、不法侵入をしてプールを楽しんだり、射撃をしてみたり、飛行機を操縦してみたり……怖いものなしだ。ナイルズもサラという相棒ができたことで、また違った楽しみ方ができるように。お互いが大切な存在だと気が付き始めたのもつかの間、ナイルズとは何度も関係を持っていたことが明らかになり、激怒したサラは消えてしまう。

そしてナイルズがサラを探し回る中で、彼はサラと新郎のエイブが挙式の前夜に同じベッドで過ごしていたことを知る。その過程で、いかにサラが家族から“問題児”として扱われているか、また自分が“ミスティの彼氏”という認識しかされていないことに気が付いていく。自分の存在にうんざりしていた2人がタイムループする中で人生を楽しむようになっていたのだ。他人からの評価を考えるより、同じ毎日を生きて、好き勝手に生きていく方が、前に勧めないという苦しみと天秤にかけても確かに魅力的かもしれない。

しかし2人は、今の自分を受け入れ、人生を進める選択をとった。消えていたサラは、リセットされない“記憶”を武器にしようと毎日勉強をしていたのだ。ナイルズは今のままサラと一緒にいたいと思っていたが、自分のエゴよりも愛が勝ったのだ。

本作以外にも、数多くの名作タイムループ映画が作られてきた。ここからは先人たちがどうタイムループを抜け出してきたのかを振り返ってみたい。

©️Universal Pictures

映画『ハッピー・デス・デイ』は、誕生日の11月18日を繰り返し続けるツリー(ジェシカ・ロース)が主人公。仮面をかぶった人物に殺されて終わる毎日を止めようと自分の普段の行いをサラ同様改めるが、自分を殺そうとしている人物を見つけ出すことでループから抜け出すことができた。これはホラー映画だからこその解決法だと言えるかもしれない。続編ではさらに別の次元に飛んでしまうのだが、どういった原理でループが起きていたかも明らかになるため、2作品続けて観ることをお勧めしたい。

©1993 COLUMBIA PICTURES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『恋はデジャ・ヴ』では、ビル・マーレイ演じる気象予報士のフィルが仕事で訪れた町でループに迷い込む。彼はとてもひねくれた性格で、周りにも無関心。しかし何度も同じ日を繰り返すにつれて、周りに関心を持ち、困っている人を助け、自分もそのループを活用して出来ることを増やしていく。やがて一緒に仕事に来ていたリタ(アンディ・マクダウェル)と恋に落ち、一夜を共にした次の日、新たな一日を迎えることになる。『ハッピー・デス・デイ』と同じように、自分の心を入れ替えてみることが直接的な問題解決にならなくても、元に戻れるきっかけになるようだ。そして人との関わりや自分の人生を見直すことがループから抜け出す秘訣かもしれない。

© CHOCOLATE Inc.

さらに、話題になった『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』では、ブラック企業に勤める社員たちが次々とタイムループにはまり、地獄のような一週間が繰り返される。みんなで映画で見た知恵や調査内容を出し合い、解決方法を探っていく。映画で言う“脇役”の人たちが、“主人公”である上司にループが起きていることを気づかせ、主人公に行動を起こしてもらう斬新なタイムループ作品。そんな独特な面白さが視聴者を虜にしたのだろう。

また、筆者としては『パーム・スプリングス』が気に入った方には、同じようにタイムループにはまってしまった男女を描く『明日への地図を探して』もぜひ観てみてほしい。ナイルズと同じようにループをそれなりに楽しんでいたマーク(カイル・アレン)は、同じようにループしているマーガレット(キャスリン・ニュートン)と偶然出会い、徐々に距離を縮めていく。『パーム・スプリングス』は周りが砂漠ということもあって閉鎖的だったが、本作は一つの田舎町を遊びまわる、より自由度がある作品だ。まるで『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』のような多くの会話が交わされ、今まで気が付かなかったような“小さな奇跡”を発見して過ごす2人。自分と周りの人の未来を見れず、夢の中で生きているような心地のままが良いのか……葛藤したマークは、もっと他人に関心を持って生きることを決めるが、マーガレットには前に進もうと思えない理由があった。

そして2人は“地図”と“奇跡”を頼りにループから抜け出せるかもしれない方法を見つけ出す。マークは科学的な根拠から、特異点である町から遠くに行ってみるが失敗。2人が未来に進む覚悟を持って結ばれることが大きな奇跡であって、それがあったからこそ彼らにとっての未来がやって来ることを教えてくれる作品だ。

タイムループに陥ってしまうと、自分の好きなことを気兼ねなくできる一方で、自らを見直す機会にもなると、様々な映画が教えてくれる。平凡な人生でも明日がやってくるのは奇跡だとも実感させてくれるタイムループを描いた作品は、想像以上に壮大で、かつ身近な世界に入り込むことができる特別なジャンルだ。

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伊藤 万弥乃

海外映画とドラマに憧れ、英語・韓国語の勉強中。大学時代は映画批評について学ぶ。映画宣伝会社での勤務や映画祭運営を経験し、現在はライターとして活動。シットコムや韓ドラ、ラブコメ好き。

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