正しく愛されて、正しく愛する。恋愛における「正しさ」が何かわかっていれば、人はもっとシンプルに恋をできるのだろうか。「だって」とか「でも」とか「だけど」とか、そんな言葉も抜きにして。
そもそも、正しく愛されて、正しく愛するとは何なのだろう。
本作は、「旦那さん以外に抱かれたいと思ったことはないの?」という台詞から始まる短編集。旦那以外の肌を求めてとある場所に通い始める女、婚約者がいながらも天使のような男に堕ちていく女、男の影に気付きながらも女の優しさの果てを求める男——恋だとか愛だとかテプラでラベリングできないような男女の出来事。恋でもなく愛でもなく、恋に化けた欲望や愛の蓑を着た甘えだとわかっていても。続くわけなどない、始まってすらいないと知っていても。それでも人はその刹那に焦がれてしまう。
「あなたは知らない」・「俺だけが知らない」の対になっている二篇が好きだ。すれ違ってすれ違って、それでもまたすれ違い続けて、いつかどこかでまた巡り会ってくれないだろうか。そんなことを望んでしまう。大人の恋って、どうしてこうも加速度的で、遠回りなのだろう。答えはわかっているのに、解き方がわからない。
正しく映らないかもしれないけれど嘘のない人たちに、私はどうしても自分の影を見てしまうのだった。
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