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4人の親友が不思議なジーンズで繋がり、大人へと成長する『旅するジーンズと16歳の夏』

©2005 Dungaree Productions, LLC.

あなたは、大人になってからでは到底思いつかないような行動をとったり、一つのことに夢中になったり、友だちと恋バナをしたりするだけでワクワクしていた時期はないだろうか?

そんな“青春”と言える時代を思い出させてくれる映画『旅するジーンズと16歳の夏』は、子供と大人の狭間に生きる思春期の女子4人が中心となる物語だ。

メインとなるのは16歳のカーメン(アメリカ・フェレーラ)、ブリジット(ブレイク・ライブリー)、リーナ(アレクシス・ブレデル)、ティビー(アンバー・タンブリン)。個性はバラバラだけど、母親同士が友人でお腹にいる時からずっと一緒に過ごしてきた。ある日、古着屋さんで体型が違う全員にフィットするジーンズを発見した4人。夏休みを別々の場所で過ごす彼女たちは、このジーンズを順番で履くことを決める。離れていてもジーンズで繋がる4人は、それぞれどんな経験をして大人の階段を上っていくのか。ずっと一緒だった友だちとの別れも近づく年齢で、どういうものに感化され、“自分”というものを築いていくのかが描かれていく。

ニューヨークで生きるセレブ高校生たちの複雑な恋愛や家族関係をオシャレに描いた「ゴシップガール」でメインキャラクターを演じたブレイク・ライブリーや、若くして出産した母とその娘の成長を追う「ギルモア・ガールズ」のアレクシス・ブレデル、「アグリー・ベティ」でファッション誌の編集部で働くことになる主人公を演じたアメリカ・フェレーラ、ファンタジーな家族ドラマ「ジョーン・オブ・アルカディア」のアンバー・タンブリンなど、年頃の女の子のいらだちや恥ずかしさ、将来への葛藤や家族との関係性を映し出すドラマを通してキャリアを築いてきた彼女たちが一堂に会しているという点も、この映画の見どころ。皆、20年ほど経った今でも様々な作品で活躍している女優たちだ。

4人は全く異なる性格なので、一人一人の夏を追っていくと個性がさらに浮き彫りになって面白い。(※以下、一部ネタバレを含む)

■自由奔放なサッカー少女・ブリジット

まず、ブリジット。正義感が強い性格の彼女は、母親が他界した今は父親と2人で暮らしている。そしてこの夏ブリジットが向かうのは、メキシコで行われるサッカー合宿だ。そこで年上のコーチと出会い、「走るのって大好き」「悪いことなんか起こりっこないと思えるの」と話すブリジットとコーチは共鳴するが、お互いに好意を向け合うまでにはなれない。ブリジットは“ただコーチに見てほしい”という独占欲のような気持ちがあるようで、それは親2人分の愛情を感じることができない現状や、母親がいなくなった現実を完全に受け入れることができていないことからきているとも言える。

そんな彼女の家族との関係性や消えない喪失感は、3年後を描いた『旅するジーンズと19歳の旅立ち』でも続く。虚しさを感じるとき、何も言わずに寄り添ってくれるような存在は誰にでも必要だ。ブリジットにとっては、両親と友人たちが大きな存在だったが、母亡き今、親友3人の存在がより大きくなっている。

■ちょっとシャイで絵が好きなリーナ

リーナは自分のルーツを見つめ直すため、祖父母が住むギリシャにやってくる。同世代のカップルたちの大人な雰囲気に圧倒されっぱなしのリーナは、海に落ちてしまい、大学生のコスタス(マイケル・レイディ)に助けられる。彼女は心惹かれるが、コスタスとリーナの家系は敵対関係であることを知り、心とは裏腹に素直に想いを表現できない自分に葛藤していく。

家族を大切にするか、今燃えている恋を優先するか。そんな岐路に立たされた彼女は、内気ながらに自分の意見を祖父に伝えるのだった。他人に対してならまだしも、16歳で家族に意見を言うことは難しいことだ。しかしリーナは、ジーンズの魔法のおかげか、勇気を出して自分の気持ちを伝えることができた。自分の意見を伝えることが、自分の人生を決めていくうえでいかに重要か、わかっていても行動に移せない人も多いはず。そんな時は、このリーナの行動に勇気がもらえるかもしれない。

■書くことが好きなカーメン

両親の離婚によって離ればなれになっていた父親のもとを訪れるカーメンもまた、ブリジットとリーナとは違う家族の形に葛藤を抱えている。久しぶりに2人きりで過ごすのを楽しみにしていたカーメンだったが、思いがけず父親に新しい家族が出来たことを知る。

自分の知らない父親になっており、自分よりもその家族の用事を優先する父親に腹を立てるカーメン。しかし父親に面と向かって、自分が怒っていることを伝えることができない。理不尽な大人の行動に対する怒りが込められていて、思春期にどこかずっといらだっていた自分を思い出してしまうだろう。ただその怒りは誰にでも湧いて来るものではない。愛があって、信頼している相手だからこそ向けることができるものである、ということも教えてくれる。

■とびきり個性的な反逆児・ティビー

一方、町に残っていたティビーは、ドキュメンタリー映画を撮影しながら、バイトに幼い妹のお世話と大忙し。そんな中、ティビーはある日、バイト先で倒れている女の子・ベイリー(ジェナ・ボイド)を見つける。そしてベイリーが撮影助手となり、夏を共に過ごすことになるが、彼女が白血病であることを知る。

ティビーは病が悪化してしまったベイリーに奇跡を授けるためにジーンズを渡すが、ベイリーはティビーと出会ったことがすでに奇跡だと話す。ティビーにとっても、新しい価値観を持つベイリーと出会えたことは奇跡だったに違いない。結局誰にでもダメなところはあるし、幸せはちょっとした時に感じるものだということを、ティビーはもちろん、筆者もベイリーから教えてもらった。

■4人から学ぶ、大人になっても大切にしたい関係

続編となる『旅するジーンズと19歳の旅立ち』は4人が高校を卒業し、大学で新たな生活を迎えるところから始まる。新生活が描かれるだけでなく、『旅するジーンズと16歳の夏』で彼女たちが築いてきた関係性も新たな局面を迎えるのだ。青春映画やドラマでは度々描かれてきた人生の別れ道。『旅するジーンズと19歳の旅立ち』ではジーンズが再び彼女たちを導いてくれる。

4人の個性がバラバラであるように、彼女たちが抱えている葛藤やこれから進む道も様々だ。いくら仲が良くても、ずっと人生を共にすることは難しい。それでも、どこにいても話を聞いてくれる友だちの存在をいつまでも大切にしていきたい、と大人になった筆者も考えさせられた。(もちろん大人になってからそのような友だちを作ることもできるだろう)

きっと彼女たちは“ジーンズ”がなくとも、お互いの今の気持ちを共有できる親友たちがいること自体が支えになり、運命を切り開いていったに違いない。この映画を観れば、大人は「自分にとってジーンズと同じように奇跡を運んでくれた存在は何だったかな?」と青春時代を振り返りたくなるし、これから多感な10代後半を迎える人たちにとっては4人の人生が一つの参考になるはずだ。

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伊藤 万弥乃

海外映画とドラマに憧れ、英語・韓国語の勉強中。大学時代は映画批評について学ぶ。映画宣伝会社での勤務や映画祭運営を経験し、現在はライターとして活動。シットコムや韓ドラ、ラブコメ好き。

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